大晦日

今年の大晦日は友達の家に集って過ごした。こちらではお決まりの大晦日の打ち上げ花火をし、ドーナツを食べ、物知りクイズゲームをした。集まったのは大人9人と子供一人である。友達のいとこが美味しいスープを作って持ってきてくれた。7年前に出会った時は14歳だった友達の甥っ子は、もう21歳になっていた。れっきとした大人である。容姿が変わり、高身長にロングヘアで、最初はお互いに軽い挨拶しか交わしていなかった。

会話が始まるきっかけをくれたのは、スープを持ってきてくれた友達のいとこであった。彼女は唐突に私に尋ねた。「日本には危険な動物はいる?」私は咄嗟に「ムカデ」と答えた。以前の私なら動物と聞いて虫は思い浮かばなかったが、以前に語学学校で、昆虫も動物だよと言われたので、そう答えた次第だ。私はドイツ語で「百足」と答えたが、ドイツでは「千足」と呼ばれているらしい。それを皮切りに、21歳の彼との会話が弾んだ。彼曰く、ドイツのムカデは刺さないし毒もないから、手のひらに乗せてあそべるかわいい虫と認識されているそうだ。それはムカデじゃなくて、ゲジゲジかなんかのことではないだろうか?色の分類が国によって違うように、虫の分類も国によって違うかもしれないし、もしかしたらドイツではムカデもゲジゲジも同じ虫として扱われているのだろうか?と思って今調べたら、やはりゲジゲジには違う名前がついているらしい。

まぁそんな疑問はさておき、私はムカデの怖いエピソードを語った。小学生の頃に母から聞いた話だ。ある日母が夜中にトイレに行って、トイレのスリッパを履いた時に鋭い痛みを感じたそうだ。トイレのスリッパの中に潜んでいたムカデが母の足を刺したのだ。その話を聞いて以来、トイレのスリッパが恐くなったのは言うまでも無い。ムカデに刺された母の足の指はひどく腫れてとても痛かったそうだ。私自身は未だかつてムカデに刺されたことはないが、それを聞いて、ムカデはなんと恐ろしい生き物だろうと思った。(そういえば、犬が好きな私の犬恐怖症も母の影響である。母が昔、飼い犬に噛まれて指の爪が壊疽になった話を聞かされ、母と一緒に歩いていた時に、道で犬とすれ違った際、母の恐怖心を幼心に強烈に感じ取った記憶がある。食べてはいけない毒キノコを動物が母親から教わるのと同じ原理で潜在意識の奥深くに危険なものという認識が移し込まれたのだ。)

さて、脱線はそこまでにして、大晦日の話に戻ろう。その後、21歳の甥っ子さんと、スズメバチの話になった。私がドイツで一番恐れている虫である。夏になると人間の近くに寄ってきて、ブンブンと嫌な音を鳴らす。甘いものが大好物で、甘いジャムなどが子供の口についていると、顔の近くに寄ってくる。以前、スズメバチが食卓に寄ってきたので夫がハムを小さく切って与えると、それを持って飛び去り、また次の餌を求めてやってきた。私は21歳の甥っ子さんに、スズメバチに刺されないようにするにはどうすればいいのか尋ねた。彼は、「砂糖水を用意してやるといいよ」とアドバイスをくれた。甘党のスズメバチたちは砂糖水を飲むことに集中するので人の方へは来ないそうだ。いいアイデアだと納得した。

その甥っ子さんは典型的な日本好きの若者らしく、アニメが好きだそうで、最近、宮本武蔵のアニメを見つけて注文したばかりだと言った。でもまだ日本語を勉強する前に、英語とスペイン語に集中せねばならないようである。そんなこんなで楽しく会話は弾んだ。彼は14歳の頃から好奇心旺盛の人懐っこい性格だったが、大人になって少し控えめにはなったものの、以前と変わらない性格でとてもフレンドリーだった。次会うのはいつになるのだろうか。

窓の外は雪景色